パイロット誌平成13年9月号No.109
  「技術レポート」に掲載されたものです。
 

  大阪港主航路閉塞時における緊急脱出

                        阪神パイロット 
                         稲葉八洲雄

はじめに

 大阪港においては、平成17年完成を目途とした港湾計画において、
1.新島の造成
2.夢洲トンネル
3.15メートル深水深コンテナバース
4.主航路閉塞時の緊急脱出

等が計画されており、建設工事は着々と進んでおり、すでに着工開始以来6年目を
迎えているものもある。


            図1.大阪港港湾計画図

 これらの中で、上記4.では、大阪港内港航路すなわち主航路が何らかの
理由により関門付近で閉塞され、大型船の通航が不可能になった場合に、
港内に閉じ込められた大型船を緊急脱出させる為、主航路の北側すなわち
夢洲の北側を東西に伸びる北航路(水深10メートル、可航巾200メートル)が使用される。

 北航路の北側には2008年オリンピック候補地として各種競技場が予定されている
人口島舞洲があり、また、航路の南側にはオリンピック選手村が予定されている
人口島夢洲がある。
 両島間をつなぐ連絡路として、世界初の旋回式浮体橋である「夢舞大橋」が
架かっている。

 夢舞大橋(供用開始は平成14年?)は、舞洲と此花区北港とを結んでいる
此花大橋(既に通行している)や、夢洲と大阪港の南西部の咲洲を結ぶ
夢洲トンネル(現在建設中の海底トンネルで大関門の海底を通っている。)
とともに、大阪港臨海部における交通ネットワークの根幹を形成するものと
なっている。

 主航路が何らかの理由で閉塞された場合に、大型本船が長期間港内に
閉じこめられるのを回避する為に、水深10メートルに北航路が建設された。
 したがって北航路をまたぐ「夢舞大橋」は大型船の通航時には開くように
旋回式浮体橋となっている。

 港は通常出入り口は1ヶ所であり、別に緊急脱出を可能とする出入り口を
設けているのは、国内はもとより世界でも初めての画期的なものであると思われる。
 浮体橋の桁下は水面上24メートルで通常時は小型船が航行する補助的な航路となっている。

 主航路の閉塞時に、本船を脱出させる為の緊急時以外にこの大橋が開くことはないが、
この旋回式浮体橋は、タグボート数隻により浮体橋全体を旋回させることにより開閉
できるように設計されている。

 先般、当航路を通航して港内に閉じ込められた各種の船舶を緊急脱出させるための
シミュレーションが行なわれたので、旋回式浮体橋とともにご紹介致します。

一.世界初の可動橋である旋回式浮体橋

 主橋梁部は、二つの鋼製ポンツーンでアーチ橋を支持した大型浮体構造物であり、
2基の係留橋脚でゴムフェンダーを介して横支持されている。
 旋回方法としては、数隻のタグボートで浮体橋全体を片開き旋回させて、大型船舶の
航行を可能にするものである。

        写真1 開橋時


            写真2 閉橋時


     写真3 タグボートによる浮体橋旋回中
     (上記3枚の写真は、大阪市港湾局提供)

 連絡橋全体としては航路部の浮体橋とそれに続く緩衝桁、および舞洲と
夢洲の両陸上部取付橋から構成されている。本橋梁の桁下空間は、
通常時は航路幅135mと桁下さ24mを確保しており、非常時には、
数隻のタグボートで浮体橋全体を片開き旋回させて大型船の航行を可能
にする航路巾200mを確保するものである。

(1)道路基本条件
  設計速度:60km/h
  車線構成:6車線両側歩道
(2)橋梁諸元
  形式:浮体式旋回可動橋
  橋長:878m(浮体橋部410m)
  幅員:38.8m
  桁下:水面上24m
(3)航路条件
  航路巾:常時135m
      開橋時:200m
  水深:10m
などとなっている。

二.北航路からの緊急脱出の為のシミュレーション実験


          図2.シミュレーション実験対象海域の状況


          図3.シミュレーション操船のシナリオ(出港経路図)

 シミュレーション実験は、平成9年11月に設置された「大阪港新島建設工事中
航行安全対策委員会」の北航路の運用に関する「シミュレーション部会」の中で
審議が行なわれてきた。
 そして平成13年2月北航路操船シミュレーション実験結果がまとまり、
委員会にて報告された。
 シミュレーション実験の概要は下記の通り。

               記
1.実験の目的

 大阪港での大関門閉鎖という不測の事態に備え、内港に停泊している船舶を
北航路から出港させる場合について、以下の事項について検証する事を目的とする。
(1)内港泊地内での保針操船時の安全性
(2)北航路への入航変針操船時の安全性
(3)北航路内での保針、姿勢制御等操船時の安全性

2.実験対象海域

 平成13年度の航行環境をもとに、大阪港内港(夢洲東方海域から北航路まで)から
夢洲西側海域までの海域(別図1.参照)

3.実験対象船舶

 対象船舶は、大阪港内港内の施設の位置を考慮し、大阪港を入出港する最大級の
船舶および出港経路別の主要船種とした。
O夢洲コンテナバース(-15m)→コンテナ船(60,000GT型)
O港大橋方面→コンテナ船(60,000GT型)
O此花大橋方面(北港白津岸壁)→自動車専用船(46,000GT型)
O咲洲國際フェリーターミナル→フェリー(14,000GT型)
O天保山大橋方面→貨物船(10,000GT型)

 対象船舶の船体主要目
 船種     全長(LOA) 全巾   実験喫水   モデル船船型
コンテナ船    299.0m   37.1m   9.0m     60,000GT
自動車専用船   181.5    32.3   8.8      47,000
フェリー     192.0    29.4   6.7      19,500
貨物船      152.0    23.5   7.0      10,000

4.外力条件

(1)風向
  出現頻度の高いNWおよび北航路での船体横方向のSの風の2方向とした。
(2)風速
  無風、8m/s、12m/sおよび15m/sとした。
(3)流況
  港内であることから、潮流等は考慮しない。

5.北航路入航までの操船局面
 (図2.シミュレーション操船シナリオ(出港経路図))

(1)夢洲コンテナバースからの出港船については、離桟より開始、その後左転し、
     北航路に入航するまで。
      離桟時には3,200PSタグ2隻使用。
(2)港大橋奥部のコンテナバースからの出港船については、港大橋通過後初速
    5ノットで開始、北航路入航まで。
(3)北港白津岸壁からの自動車船の出港は、離桟から右転その後北航路入航まで。
      離桟時3,200PSタグ2隻使用。
(4)國際フェリーターミナルからのフェリーの出港船については、離桟後北航路に
    向首した地点から初速5ノットで開始、北航路入航まで。
(5)安治川方面からの貨物船の出港は、天保山大橋通過地点から初速5ノットで開始、
    梅町先端を右転、北航路入航まで。

6.シミュレーション実験評価の観点

 実験は、船種別、バース別、風向別、風速別、北航路入航時のタグ使用/不使用別で
合計16ケース実施された。

 評価の観点は、
(1)夢洲コンテナバース、北港白津岸壁対象自動車船
      * 引出し時の本船姿勢制御
      * 北航路入航までの操船局面
      * 操船目標の必要性
(2)港大橋方面、天保山大橋方面対象船舶
      * 内港泊地から北航路入航までの操船局面
      * 北航路入航後の保針操船局面
      * 操船目標の必要性

7.シミュレーション実験結果の考察およびまとめ.

(1)夢洲コンテナバースおよび北港白津岸壁からの出港

  北航路東側水域での変針時には、風による圧流影響にも注意を要する。
   また、浅水影響よる回頭角速度の低下は顕著であり、操船にあたっては特段の
  注意が必要である。
  北航路に向う為の回頭時にタグボートを積極的に使用して支援を受けた場合は、
 「その場回頭」に近い方法で航路中央部にこ向首できる。

  その後速力を暫時増速し、北航路入航時に5ノット程度が、また航路屈曲部を
 通過した辺りからは9〜10ノット程度の速力で航行できれば、航路内では
 風による圧流および風上側への切り上がりに対しては舵により船体制御が
 可能であり、北航路を安全に航行することが出来る。

(2)港大橋方面(コンテナ船およびフェリー)からの出港

  港大橋方面から北航路に至る実験では、機関をHalfもしくはFullで使用する
 ことにより、比較的舵効が期待できる速力であり、しかも北航路までの
 入航ルートが梅町先端部沖で小角度の変針を伴うものの、ほぼ直線コースで航行できる。
  内港泊地内および北航路内では、風速12m/secの強風下船体真横から風を受ける
 状況であり、風圧による圧流および風上側への船首の切り上がりに注意を要する。
 しかしながら、機関を増速することにより操舵により保針制御でき、内港泊地内
 および北航路内では安全に航行することができる。

(3)天保山大橋方面からの貨物船の出港
 内港泊地内での航行速力が7〜8ノットを確保できるのであれば、特に操船に
 問題はないものと思われる。
 また風速15m/secの状況での実験は12m/secの状況よりも風上への切り上がりが大きく、
 北航路航行時には保針のためのあて舵も10度程度必要となるものの、12m/secでの
 実験状況と同様に、船体姿勢を制御する事ができ、安全に航行することが出来る。

                                    以上
 

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